第26回(2024年)福岡デザインアワードの受賞商品が決定しました!

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Design story ~ぐっポス~

2014年(第16回)福岡デザインアワード大賞受賞

独楽工房 隈本木工所 
隈本 知伸 さん

 
「伝統のコマを作り続けるため」新しい3D加工技術にも果敢に取り組む


机の上で字を書くとき、置き場が定まらないもう一方の手を “ぐっ”と握ることで固定させ、子どもの筆記姿勢を改善するという人間工学に基づいたアイデア商品《ぐっポス》


「《ぐっポス》は、大川市のインテリア研究所から持ちかけられた企画で、もともとは私のアイデアではないのです」と語るのは『隈本木工所』六代目社長・隈本知伸さん。

「きっかけはこのコマです」と、
2013年ごろ導入した3D加工機械で初めて開発した《ラクコマ》という商品を見せながら説明してくれました。



《ラクコマ》は、コマの納品先である保育園の先生から、「最近は紐をうまく巻けず、コマを回せないまま卒園する子たちも多い」という声を聞き制作を思いついたもの。コマの裏に紐を巻きやすくするための<らせん状のくぼみ>があるのが特徴です。

「この左右非対称ならせん状のくぼみを作るのが、従来のろくろという技術では不可能だったのです。そこで3D加工機械の導入を決めたのですが、この機械を使いこなすのがまた大変で。インテリア研究所にデータの作り方から、機械の運用の仕方まで、丁寧に支援していただき、なんとか商品の完成にこぎつけました。」
 

アシンメトリーな形状の成形を可能にした3D加工機械。この大きな機械で30分という時間をかけても、1回に削られる《ラクコマ》や《ぐっポス》の数は4~6個

「すると、しばらくして担当の方が別のスタッフの方を連れて来られたのです。その方は、ある小学校の児童たちの協力で、子どもの筆記姿勢を改善する商品の開発に取り組まれていて、《ぐっポス》の原型(紙粘土)を手に、これを木で商品化できないかと相談されました。」

「お話を伺ううちにこれは子どもの役にも立つし、地元・八女の木材も使える。さらに導入したばかりの機械も活かせそうだと考え、すぐにやろうと決めました。ですから《ぐっポス》はデザインというより、もともと紙粘土で実現されていた機能を、やさしい木の味わいで再現するための<モデリング>と言った方が正しいですね。」

「とはいえ、紙粘土の原型を木で再現するのはそう容易ではありませんでした。原型の機能を握りやすさ・握った時の気持ち良さを兼ね備えた形状で実現するため、何度も3D加工機械のプログラムを書き換え、納得いく形になるまで試行錯誤を続けました。特に、素材にはこだわり、八女産のスギ、ヒノキ、クスの3種類で試作。ブラインドテストの結果、ほとんどの人が一番温かいと感じたスギを素材に選びました。」
 

3D加工機械で削られた《ぐっポス》は、その後3種類の紙やすりを使い、手作業でひとつ一つ丁寧に仕上げられます。


古くから伝統工芸が盛んな八女の地で、代々、独楽工房を営んできた隈本木工所。伝統工芸が下火になる中、それでも「本業のコマづくりを続けたい」と新商品開発のために踏み切ったのが、3D加工機械という新技術の導入でした。その一歩によってもたらされた《ぐっポス》との出会い。「《ぐっポス》ほど<コンセプト><デザイン><素材の良さ>がうまく合致した商品はありません」と隈本さんは語ります。



その確信どおり、《ぐっポス》は2014年の福岡デザインアワード大賞を受賞。新聞・テレビ・雑誌でも度々紹介されました。しかし、いままでにないユニークな商品だけに、一般的な認知には時間がかかるのも事実です。

「メディアで紹介された直後は注文も増えますが、紹介されなければ売れ行きは鳴かず飛ばず。今後の課題は売上の安定です」と隈本さん。「これが売れないはずがないと思って丹精込めて作っています。伝統工芸とモノづくりの現場を次世代に残していくためにも、《ぐっポス》を主力商品として育てたい。そして、これからも新しい技術を取り入れ、よりよい木のおもちゃ作りに挑戦していきます」と語ってくれました。

 


独楽工房 隈本木工所
福岡県八女市吉田1507-3
http://www.yamegoma.jp/SHOP/R-5.html

 

取材日:平成29年10月20日