2009年(第11回)福岡デザインアワード 大賞受賞
株式会社 辻利茶舗 (受賞当時「株式会社 つじり」)
辻 史郎 さん
「デザインを武器に“緑茶”の新たな価値を切り拓く」
江戸時代・萬延元年(1860年)の京都・宇治に端を発する老舗茶屋・辻利茶舗。2009年の福岡デザインアワードで大賞を受賞した《緑茶維新シリーズT/BAG(ティーバッグ)、T/POWDER(ティーパウダー) 》は、当時まったく別の業種からお茶業界に入ったばかりの辻社長が、初めて開発に取り組んだ商品です。
「ティーバッグやティーパウダーという商品は以前からあり、特に革新的なアイテムというわけではありませんでした。ただ、お茶業界の常識を知らない入社したての新人であった私には、“ペットボトルのように持ち歩ける手軽さがありながら、急須で淹れるちゃんとした日本茶の美味しさが備わっている。こんなに便利でいいものを、しっかりとPRしないなんてもったいない!”と思えたのです。」
「<“緑茶”を“維新する”>をキーワードに、デザイン力で、他店とは一線を画す価値を生み出したい」、商品開発にあたってはそんな強い想いでのぞみました。お茶という商品を若者も受け入れやすいよう、<カワイイ><おしゃれ><シンプル>を兼ね備えたパッケージデザインを依頼。デザイナーとのやり取りを重ね、コンセプト固めに約1か月半、さらに約5か月をかけてデザインのブラッシュアップを重ねることに。その徹底したこだわりと試行錯誤の過程は、当時のやりとりを収めたファイルからも伺えます。
「ロゴの“TB”、“TP”は私のアイデア。“T”にはお茶(ティー)のTと、辻利のTが掛けてあります。一方、“茶”のロゴはデザイナーさんのアイデアです。商品の形状(ティーバッグの三角、ティーパウダーの丸い粒など)や、社名の“辻”が“+(クロス)”モチーフになぞらえて表現されています。“果たし状”をイメージしたリーフレットも“維新”という商品コンセプトから生まれたものです。」
《緑茶維新シリーズ》の福岡デザインアワード大賞受賞は、辻さんにとって、また会社にとってどんな意味をもつのでしょう。
「アワードに参加したことで、デザインに対する考え方と、その取り組み方の礎が自分の中にできあがりました。その最たるものは、依頼者である私たちと、依頼をカタチにするデザイナーは、<対等の立場>でひとつのものを作り上げていく<仲間>なのだという気づきです。」
「<発注する側><発注される側>という立場を超えて、時に意見を戦わせることも必要です。この濃密な協働作業から生まれた商品の新デザインにより、売り上げが確実に伸びたことは言うまでもありません。国内はもちろん、この《緑茶維新シリーズ》は現在、辻利茶舗の海外支店でも販売され、世界を相手に勝負できる主力商品となっています。」
2015年には《日本茶と金平糖で「作る」和のギフト》で福岡デザインアワード優秀賞を受賞。色鮮やかなパッケージの金平糖が売場に並びます。
「20年後、30年後、世界中の人々が、紅茶やコーヒーを飲むような感覚で、日本茶を楽しんでいる世界」を夢みて、辻社長は目下、辻利茶舗のさらなる海外展開を進めています。
「わが社は現在、世界11か国34店舗(2018.1現在)を拓いています。今後の広がりをより強固にしていくためにも、CI(コーポレート・アイデンティティ)やVI(ビジュアル・アイデンティティ)の徹底が必要です。それは国内でも同様。実は、企業理念やそれぞれの商品コンセプトをビジュアル化し、後進に伝えていくため、すでにすべてのロゴマークおよびプライスカードのCI ・VIを整理しました。」
「“一地方都市のお茶屋がそこまでやらなくても”と驚かれるかもしれません。実際、CI ・VIの整理には、かなりの予算と時間がかかりました。ですが、私たちにとってデザインはそれだけ重要な武器なのです。社長になり、これまでのように自らが現場に関わることが難しくなった今、デザインに関わる社内人材の育成にも特に力を入れています。」
株式会社 辻利茶舗
北九州市小倉北区魚町3丁目2-19 2階
http://www.tsujiri.co.jp/
取材日:平成29年10月25日