第26回(2024年)福岡デザインアワードの受賞商品が決定しました!

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Design story ~TONBY(トンビー)~

2008年(第10回)福岡産業デザイン賞(デザインアワード) 大賞受賞

TONBY(トンビー)

 

紙飛行機デザイン工房

長松 康男さん

 

機能と効率を兼ね備えたデザインで、“社会に役に立つ”紙飛行機作りを。



 

 「《TONBY(トンビー)》ができた時は、『これだ!』と思いました。“ビビッとくる”という言葉がありますが、体中に電気が走るような、まさにそんな感じ。趣味としてではありますが、小さい頃にその魅力にとりつかれて以来、ずっと紙飛行機を作り続けていました。もともと私がインダストリアル・デザイナーということもあり、『社会のために、もっと役立つ紙飛行機を作れないものか』と長年、試行錯誤していたのです」。そう語るのは、紙飛行機デザイナーの長松康男さん。
 


 

《TONBY》は、鷹のような形をした折り紙式の紙飛行機。三角形の紙を5回折るだけでできるシンプルな構造ですが、重心や尾翼の工夫により、高いところから落とすだけでなめらかに滑空します。そのため、高所から一斉に大量投下すれば、ショーやコンサートではまるで花吹雪のようなドラマティックな演出効果を実現できます。

 しかし、《TONBY》の利点はそれだけではありません。素材が紙であることから、イベントやショーに合わせた意匠を直に印刷することができ、主催者のメッセージを伝えることができるのです。また、《TONBY》にナンバリングすれば抽選くじに早変わり!アイデア次第で《TONBY》の用途は実に多彩です。

 紙飛行機デザイナーとして起業するまでは、大手家電メーカーや、地元の住宅電気機器会社でインダストリアル・デザイナーとして働いていたという長松さん。その信条は「デザインとは<形>や<見た目>だけを設計するのでなく、その<機能>と<効率>を考え、<製造過程>までトータルに構築すること」と徹底しています。
 

 《TONBY》の発想の原点は、“神が作ったグライダー”と呼ばれている植物、ザノニア(和名はがんどうかずら)の“空飛ぶ”種。当初は発泡スチロールを特殊な技術で薄くスライスしたシートで作っていましたが、よりシンプルな素材と工程、機能性を突き詰めていく過程で、現在の折り紙型紙飛行機にたどり着いたそうです。

 

 

 「しかし、一番苦労したのは、これをビジネスとして量産できるような体制にするための治具(※)作りでした」と長松さんは言います。

 前述のように、《TONBY》は特殊効果用の紙飛行機であるため、結婚式場などでは300機、通常のイベントは会場の大きさに合わせて1000~3万機といった、一度に大量の《TONBY》が必要になります。そのため、長松さんはこの大量の《TONBY》製作作業を、地元の職業訓練校など数か所の福祉施設と提携し行っています。協力してくれた施設にその利益を還元することで、社会貢献も果たせるしくみです。

 ところが、運用当初には、受注した大口の依頼物件で、出来上がってきた《TONBY》の3分の2が使い物にならなかったという苦い経験もあったとのこと。そこで真っ先に取り組んだのが「誰が作ってもきちんと正確に《TONBY》を作れる“折り機”作り」でした。

 

治具は全部で4つ。サイズ通りにカットされた三角形の紙をセットし、手順通りに、動かしていくだけで、すばやく正確に《TONBY》を折ることができる。

 

 「完成品を見れば実に簡単なようですが、これを完成させるまでには実に1年以上の時間がかかりました。まずは折り機を設計し、次に、買ってきた板をカットして、組み立てて…強度や折り目の具合を確かめながら何台も試作機を作りました。《TONBY》作りは単純作業ですが、だからこそ、こういった製作工程を数秒短縮することで、作業全体の大きな時短につながるのです。」長松さんの工夫はさらに続きます。

 「せっかくの完成品も、納品の際に折れ曲がってしまっては台無し!きちっと完成形をキープした状態で納品できるよう、パッケージまで緻密に設計して作りました。」

 


 「地道な営業活動の成果もあり、学校の卒業式や企業の周年イベント、結婚式など小口の依頼は増えつつあります。けれども、《TONBY》をビジネスとして安定させるには、まだまだ知名度が足りないと思っています。そのためにも営業力の強化は必至です。年間100公演ほどのコンサートで、1万機ずつ飛ばすことができれば、協力してくれる職業訓練校や福祉施設などにもコンスタントに仕事を発注できますし、それと同時にビジネスとしても成立します。そのためには、とにかく《TONBY》が実際に飛ぶ様子を一度でも観てもらうこと。『観た人の感動と喜びとともに《TONBY》のビジネスチャンスは広がっていくはず。』そう信じて、《TONBY》のデモンストレーションや、エンターテインメント・ビジネス業界への地道な営業を続けています。これからも、機能性を兼ね備えたユニークなデザインを通して、社会に役立つ夢のある紙飛行機を作り続けていきたいですね」と、長松さんは最後まで熱く語ってくれました。
 

※商品の加工や組み立ての際、部品や工具の作業位置を指示・誘導するために用いる器具の総称。

 

紙飛行機デザイン工房

小郡市小郡101-1、J-502

http://www.kami-hikouki.com/

 

取材日:平成30年3月6日