第26回(2024年)福岡デザインアワードのノミネート商品が決定しました!
2007年 第9回 福岡デザインアワード 大賞受賞
有限会社 小倉クリエーション
渡部 英子(わたなべ ひでこ)さん
小倉クリエーション社長・渡部英子さん。渡部さんの背後に並んでいるのが、機械織復元・再生された『小倉織』の生地。
はじまりは江戸時代初期。その丈夫さ、使い心地、通気性の良さから、江戸期後半には袴や帯の素材として全国で使われるほどに発展したのが『小倉織』です。それでも長い歴史の中でさまざまな産業革命が進み、昭和初期にはその生産が途絶え、人々の記憶からも消えていきました。
一度は失われた『小倉織』を機械織のファブリックとして復元・再生させたのが、小倉クリエーションの渡部英子社長です。きっかけは、実の姉で染織家の築城則子氏が、その素晴らしさと歴史に触れ、個人作家として手織りで蘇らせたこと。その後“もっと多くの人に小倉織を知ってもらいたい”と、機械織での復元に着手します。ところが、地元小倉にそのノウハウを知る機屋(はたや)は残っておらず、現存する資料もほとんどありませんでした。
「そこで、開発にあたり協力をいただいたのが、福岡県工業技術センターです。機械織での復元は、古い『小倉織』の生地を分析することから始まりました。布地の特徴を理解すれば、昔の『小倉織』をそのまま復元することは、それほど難しいことではありませんでした。ただ、今この時代に『小倉織』を再生するにあたり、当時の『小倉織』に固執する必要があるのか、という基本的な疑問が問題になりました。『小倉織』の強みに特化しつつ、現代のニーズに合う新しい『小倉織』に挑戦するということが一番難しかったのです。」
『小倉織』は、よこ糸に対して、たて糸が通常の3倍という密度の高さから生まれる美しい縞模様が特徴。写真はデザイン性も高くカラフルに生まれ変わった新しい『小倉織』。
もっとも苦労したのは、新しいことに一緒にチャレンジしてくれる機屋を見つけること。
「『小倉織』は、先に糸を染める先染めの織物。幸い、福岡県の南部には〈久留米絣〉など、同じ製法を得意とする産地があり、福岡県工業技術センターの担当者が『小倉織』に適した産地や機屋をいくつか紹介してくれました。ただ、繊維業界自体が斜陽の中、複雑なデザインワークを面倒くさがらずに根気強く織ってみてくれる機屋に巡りあうのは至難。ところが、今後の展開も見えない状態であるのに“まずやってみましょう”と言ってくれた業者さんが見つかったのです。この出会いが、当プロジェクトを推進する鍵になりました。」
かくしてプロジェクトは無事に始動しましたが、問題はまだ残っていました。それは一度に織る“生地の長さ”。複雑なデザインであればあるほど、何千メートルという生地を一度に織りたいのが機械織業界の本音です。にもかかわらず、最少ロットの300メートル×10柄から始めることにした渡部さん。最少とはいえ、合計3000メートルにもなる布地は、もともと布を扱う代理店経験のある渡部さんにも“どうやって売ればいいのか”想像もできない長さだったと言います。
そんな状況を一変させたのが、2007年の福岡デザインアワードでの大賞受賞でした。その年は、ちょうど『小倉 縞縞』のブランディングをスタートさせた年。しかし、4年がかりでようやく生地を完成させたものの、売り方については依然手探り状態。
そこで、渡部さんは福岡県産業デザイン協議会が主催する『デザイン開発ワークショップ』に参加することに。デザインに特化した商品づくりやモノづくり、販路開拓を学んでいる間にアワードへのエントリーを勧められたのだそうです。とはいえ目の前にあるのは布地だけ。エントリーできる商品はまだ何一つありませんでした。そんな時に思いついたのが、一番シンプルに生地自体を商品としてみせることができる「風呂敷」それが記念すべき商品第一号になりました。そして見事、大賞を受賞したのです。
『小倉織』の布自体を商品として見せられ、プレゼンテーションにも有利だった大賞受賞作品の風呂敷
「一番うれしかったのは、福岡デザインアワードでの受賞をきっかけに、北九州市も関心を示し始めてくれたことです。『小倉織』の存在が少しずつ地元にも伝わり、国や地方自治体の助成金やプロジェクトの募集情報も自然と集まってくるようになりました。」
福岡デザインアワード受賞後に公募があった、経済産業省の世界進出プロジェクトにも参加。扇子やランチョンマットなど、海外でも使用用途があり、また日本らしさもアピールできる商品の開発を続けるうちに、次々と布地を発注できる状況になりました。
来期の計画と商品づくりをスタッフと一緒に進める渡部さん
「『小倉 縞縞』のブランドを立ち上げて10年。これまでは『小倉織』の存在を知ってもらうための10年でした。現在は次の10年のための準備を進めているところ。『小倉織』を国の地域ブランドとして認定してもらうため、共同組合を組織し、より広域に『小倉織』の継承と情報発信を進める予定です。」
「そして、『小倉 縞縞』では、“生地を売る”という本業に、これまで以上に力を注ぎます。当初から幅広い分野での販売を視野に入れ、幅広の生地にこだわってきました。それを活かし、ファッション業界や、ホテル、レストラン、公共事業主からのファブリック受注にも本腰を入れていきます。」
「デザインと一番直結するのは、自社のモノやブランドへのこだわり。私自身はブランドとして常にアバンギャルドに、企業としても常に革新的に前に向かっていく企業でありたいと思っています。その積み重ねの上に“振り向けばいつしか伝統になっている”、新しい『小倉織』をそんな存在にしていきたいものです。」
有限会社 小倉クリエーション
福岡県北九州市小倉北区大手町3-1-107
※写真は「小倉 縞縞」本店
取材日:平成29年12月12日
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